───PM6:02。
「おい,どこに行ってた?」
約2時間ほど音信不通になっていた藤井に,ベッドの上の聖志が尋ねる。
「悪いな,少し知人に会ってきた」
「知人?」
「…中槻だ」
藤井は,つい先ほど帰った美樹が座っていた椅子に座り,言った。
「何でまた?」
「いや,何となく尾行しただけなんだけど…妙なことになってきたぞ」
「…聞こうか」
藤井は取りあえず今日起こったことを全て話した。
聖志は所々メモを取り,それを聞き取る。
「…ま,そんなところだな」
「なるほど。ついていった先が,たまたまそういう現場だったと」
話を聞き終わると,聖志は腕を組んだ。
「ああ」
「ま,中槻が物騒なことに関わるのは今回だけのことじゃない。この事件が起こる以前にも何かややこしいことをしてたみたいだし」
「それ自体はな」
「気になるのは,誰の殺しを引き受けているか,だな」
「うーん…」
藤井は膝を枕に片腕を立て,頭を手で押さえる。
───こいつ,考えてないな…?
彼の癖の一つで,すごく考えているように見えて,実は何も考えずにいるという行為である。
「見当も付かないか?」
聖志は試しに聞いてみる。
「…付かないってことはない。可能性があるとすればお前だな」
彼は頭を押さえたその手の親指で聖志を指す。
「分かってるじゃないか」
「本当にそうだと思うのか?」
珍しく藤井は念を押す形で聞いてくる。
「…俺は今のところ彼に対して何もしていないぞ。逆にやられはしたが」
「だよなぁ」
「逆襲の線はあり得ないな。あるとすれば,情報が漏洩した場合だ」
つまり,聖志がJSDO所属でこの事件を追っているという情報が中槻に渡った場合である。
「お前を殺って殺害未遂の罪を揉み消すつもりじゃ?」
「バカか。俺を殺すと余計に騒ぎになるではないか。殺人罪,公務執行妨害,銃刀法違反など諸々のおまけ付きで。それに,お前と…あの女子高生,誰だったっけ?」
「…藤堂か?」
「ああ,そいつも目撃者だ。罪を帳消しにするなら最低この3人を殺さないと」
その後数分間,沈黙が続く。
「…中槻は何かこの件に絡んでるんじゃないのか?」
沈黙を破ったのは藤井だった。
「もう充分絡んでる。俺がここにいるのがいい証拠だ」
「それ以外に,だ」
「…どういうことだ?」
「つまり,現段階では関わっていないにしろ,だんだんと奴の名前が出てくる可能性があるんじゃないか?」
「…何故だ?」
「行ったところはサテラシステムで,中槻の依頼人と思われる人物は女性のようだ」
聖志はそれを聞くと,本能的に答えを導き出した。
「…秋本か?」
「多分」
「…糸が解れてきたな」
「ああ」