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───6月28日。

彼はいつものように学校に向かう。正門をくぐる…と!!

───あちゃー…。

聖志は思わず頭を抱えた。

職員玄関口にたむろするマスコミとそのカメラ。せっかく秘密裏にJSDOが調査を進めてきたと言うのに,その苦労が水の泡である。恐らく朝刊で発表された若井田逮捕によって,マスコミが弾かれたものと思われる。

聖志はインタビューを避けるために塀に隠れながら走り,昇降口へ向かう。と,藤井が偶然通りかかった。

「…聖志か」

「…ついに来たようだな,嵐が」

聖志はほかの生徒が来ていないのを見計らって藤井に言った。

「で,今日は授業あるのか?」

「…多分,午前中だけだな。そして,恐らく明日から休校だ」

「学生にとってはありがたいな。もちろん,俺にとっても」

試験勉強を全くしていない者にとっては,願ってもない臨時ニュースである。

「バカか,することが増えまくるぞ。一気に片をつけなければならない」

「…ま,そりゃそうだけど…。状況証拠しかないからかなり弱いぞ」

「それはそうだが…おっと,じゃあ後で」

藤井がいきなり話を打ち切ったので,聖志は黙って頷いた。後を見ると,案の定ほかの学生が登校してきている。この学校はどうなってしまうのだろうと言う困惑の表情を浮かべながら。

とりあえず聖志は上履きに履き替え,教室に向かおうとする…が,前に進まない。

「聖志,おはよ」

「お前な,背中を摘むな」

ブレザーの背中を摘んでいるのは舞である。

「…それより,どうなってんのこれ?」

これ,とは勿論マスコミの大群のことである。

「さあ。なんかしたんじゃないの?」

あくまで聖志は関与していない態度を貫く。

「…それにしても,若井田先生がねー」

「え? なんかしたのか?」

「宇部の誘拐事件あったでしょ。あれをしたのがあの先生だったんだって」

「ふーん」

聖志は全て知っているだけに,どういう風にリアクションをとっていいのかわからなかったが,いつも興味なさそうな感じなので特に舞は不思議に思わなかったようだ。

「そういえば,お父さんに会った?」

教室へ向かう廊下での会話。

「…どうかしたのか?」

白々しく惚ける。聖志にはそれがどうにもこうにも苦痛に思えてきた。しかし,簡単に教えるわけには行かない。

「昨日,怪我したんだって」

「…仕事でか」

「うん,市立病院に入院してる。…お見舞いしてあげて。きっと喜ぶわ」

「…そうか。機会があればな」

聖志はいつもの如く,あまり気乗りしない返事をした。

「もう,そんなことばかり言うんだから…」

彼女はそう言いながらも,聖志の答えを予想していたようだ。そんな会話をしながら彼女の教室の前まで来ると,教室から誰かが出てきた。

───中槻!?

「あ,中槻君」

聖志が気付くのと同時に舞が声をかけた。

「…おはよう,…星野さんだっけ」

彼はぎこちない笑みを浮かべながら,彼女に声をかけた。

「そう。覚えてくれたね」

「うん,なんとかね。えーっと…」

「俺は違うクラスだから,知らなくて当たり前だろうな」

聖志のほうを見ながら必死に思い出そうとしている彼に,先に切り出した。

「あ,そうなのか。…見たところ,付き合ってるの?」

端から見るとぶしつけで失礼な奴かと思われるだろうが,ストレートな言い回しに聖志は好感が持てた。

「うん,10年前から」

お決まりの返しを舞が言った。

「へぇ,幼馴染って奴かい?」

彼はいきなりフレンドリーな言葉遣いになった。恐らく彼はもともとこういう性格なのであろう。中槻はその渋いマスクを友人用の柔らかい表情に変えて話した。

「そうなの。いつも言われるんだけどね」

聖志は説明を舞に任せた。

「ところで名前,教えてくれない?」

中槻の言葉に,聖志は一つ仕掛けることにした。

「…山田だ」

『うそ!?』

舞のリアクションは予想済みだった。しかし。

───やはりな…。

「…え? …中槻君,彼の名前知ってるの?」

違和感を覚えた舞が尋ねた。

「…だって,山田って感じじゃないもん」

「うーん,そう言われてみれば,そうかな」

舞が中槻の横で聖志の顔をじっと見る。中槻はとっさにしてはうまいいいわけを考えたが,一瞬自分でもしまったという顔をした。

「それで,ホントの名前は?」

彼が期待に満ちた目で聖志に聞き返した。と!

キーンコーンカーンコーン…

都合のいいことに,予鈴が鳴り響いた。

「…それは後のお楽しみだ。じゃあ」

聖志は一方的にそう言って教室へ向かった。

 

───あいつ,俺のことを知ってるな。

聖志は1時限目の授業中に考えた。

カマをかけたのは正解だった。中槻は聖志の事を知っているのだ。問題は,どのように聖志の名前を知ったのか,である。そして,知っている情報はそれだけか。つまり,聖志がJSDOのメンバーであることを知っているのか,ということである。

───これは,本格的に彼について調べたほうがいいな…。

いくらただの宝捜しまがいだからと言って,野放しにしておいては何をするかわからない。それに,彼は聖志が知らない情報を持っているかもしれないのだ。ただ,その可能性は低いが。

藤井が言ったとおり,その日は半日授業となった。聖志は久しぶりにPCルームへ行くことにした。彼の詳細情報について,本部へアクセスして調べるためである。

聖志は帰り支度をし,ついでに購買所で昼飯を買い,早速PCルームへ向かう。当然中には誰かがいると思ったが,意外や意外,誰もいなかった。これから来ると言う可能性も無きにしもあらずだが,先に人がいるのでは作業がしにくい。

聖志は当然のように黒板の前にある教師用のコンピュータの電源を入れる。このコンピュータには,唯一モデムが装備されている。一方,生徒用のパソコンは必要なプログラムしか入っていないので,使い勝手が悪い。

取りあえず学校監視システムを解除し,いつも持っているノートパソコンをつなぐ。そして設定時間を利用し,昼食タイムにする。

と,急に扉が開く。聖志は特に反応しない。

「…やっぱり。聖志,今日はとっとと帰った方がいいぞ」

「急にやることが増えたんでな」

今日はきっちりしたスーツ姿の,藤井にそう言った。

「やることか?」

「ああ,中槻とコンタクトをとった」

聖志は彼とのやりとりを説明した。

「なるほど。…しかし,それほど信憑性のある言葉とも受け取りにくいが…」

「確かに。だが,彼の表情を見てないだろう」

「…そうだな。百聞は一見にしかずって奴だな?」

「少なくとも俺はそう思うが」

「じゃあ任せる。早めにな」

「ああ」

聖志の返事を聞くと,藤井は静かに扉を閉めた。

話している間に設定が完了した。聖志は教師用コンピュータからネット回線を使い,JSDOのデータベースにアクセスする。本来ならば本部に連絡して調べてもらうのが正規手順だが,そんなことをしていると,一個人情報など何日かかるか分かったものではない。一応本部長にはことを話してあるので聖志はよくこの手段を用いる。

ディスプレイを睨み続けること10分というところだろうか,廊下に誰かの足音が響いてきた。音から分かるように複数の人間がこの教室に近づいている。特に聖志は気にしなかったが,もし中槻本人が現れると面倒なので,対策をした。

と,程なくしてルームの扉が開いた。

「先輩,やっぱりいたね」

「よう,高倉…と大嶋先生か」

「こんにちは」

彼女は微笑む。あの事件の後だけに表情に曇りが見えるかと思ったが,特に変化はない。

「あ,先輩」

「え?」

大嶋の後ろから葉麻がひょっこり顔を出した。

「ああ,いたのか」

彼女は少し遠慮がちに教室に入る。

「先輩は,自習ですか?」

「ま,そんなところ」

聖志は適当な返事をした。しかし,大嶋の様子が気になったので表情を読みとる。と,唐突に,

「西原君,少し話があるんだけど」

「…分かった」

高倉と葉麻は予め大嶋から聞いていたのか,特に反応はない。

聖志はコンピュータのディスプレイを切り,ついでに少し細工してから廊下へ出る。

「屋上へ行きましょう」

彼女の言葉に黙って頷き,屋上へと向かう。

 

「それで?」

正門とは反対側のグランドの方の柵にもたれながら,聖志が尋ねた。

「やっと聞き出せた」

「ほほう,嬉しい限りだな。いつ聞いた?」

「昨日。ちょうどあの事件が起こる前」

「…あの事件?」

彼女の誘導に引っかかってはいけない。誘導ではなかったのかも知れないが,それに引っかかって無闇に正体を知られるよりはいい。

「…知らないの? 星野さんのお父さんが怪我したって…」

「そういえば言ってたな…。大嶋さんは無事だったのか?」

「何とかね。勇気ある人が助けてくれたの」

彼女は微笑んでそう言った。

───星野,喜べ。

「…でね。やっぱり学校の地下は…」

「…遺跡だったのか?」

「そうみたい。この学校も,元は父の…所有権があったんだけど,今の校長先生が買い取ったみたいなの」

聖志は中央学院の校長の名前は知らない。

「…お父さんは,所有権の買い取りに承諾したのか?」

「そうせざるを得なかった,と言った方がいいかも」

彼女はひさしの下にある,テーブルの前のイスに腰を下ろした。

少し表情が曇っている。

「ま,想像はできる」

「…」

「つまり,大嶋さんの存在が危険だった。それを画策したのが今の学校の上層部である,と言うわけか」

大嶋は頷いた。

「…それで,話を戻すが…その地下の遺跡は,どう言ったものなんだ?」

「たぶん,この辺りじゃ最古だろうって言ってた」

「…詳細は分からないか」

「詳細って…遺跡について?」

「ああ」

「…それは聞いてないわ」

つまり,それを答えられるほど健康状態がよくないということなのだろう。

「…資料があると嬉しいんだけど」

「遺跡に関する資料? 確か研究所にあったような気がする」

「研究所か…今はどうなってるんだ?」

高崎市立考古学研究所は,高崎市の南側にある。大嶋淳次がまだ肺ガンを患って間もない頃は一般向けに公開されていたのだが,この半年は所長が不在の状態なので,一般向け公開はしていない。恐らく次代所長は,今,聖志の目の前にいる水穂になるであろう。

「閉鎖中。でも私は入れる」

「それはありがたい…。研究所のコンピュータは起動していないのか?」

「一応あるにはあるけど,閉鎖するときに全部電源をカットしたわ」

「…全部か? 保存状態を維持する必要はないのか?」

湿度などを維持しないと変化してしまうかも知れない。

「それは自動的に設定されてるの。館内設備用の電源と保存用電源は互いに独立してて,私が使えるのは前者だけ」

「…そうなのか。そのシステムはお父さんが?」

「ええ,創立するときに専門家に頼んだらしいわ」

「ほほう」

───後で調べるか。

「…ありがとう。これで少し前進したかも知れない」

聖志は礼を言った。

「うん,こんなことしかできないけど。…あなた,普通の学生なの?」

「…」

いずれ来るであろうと考えていた質問である。JSDOのことは,美樹が知っているだけに,これ以上そのことに関する情報を他人に与えるわけにはいかない。

「悪いがその質問はなし。解決するまで」

聖志はそう言い残すと,大嶋の返事も聞かずに屋上を後にした。

 

「あ,先輩」

PCルームに戻ると,葉麻と高倉が自習をしていた。

「ねね,大嶋先生なんて?」

高倉が興味津々に尋ねてくる。もう彼女のこの手の質問に慣れてきた聖志は,

「高倉が悪ガキだって」

「えー,何よそれぇ」

彼女は本気にしたのかどうか分からないが,口を尖らす。

「ふふ,悪ガキだって」

彼女の隣の葉麻が悪ガキという言葉に反応した。

「佐紀まで…」

「冗談よ,ふふ」

聖志はそれを聞きながら,ノートパソコンを鞄に入れる。

「さて,俺は帰るから戸締まりは任せる」

「え,帰るんですか?」

「少し用ができたんで。じゃな」

「はい,さようなら」

その言葉を背中に受け,聖志はPCルームを後にした。しかし,一つ気になることがあった。

もう誰もいない西校舎一階を歩き,化学準備室へたどり着く。聖志は一旦化学室へ入り,鞄の中のグロックを確認する。マガジンチェックを済ませると,化学室を出て化学準備室の中の様子を伺う。様子を伺うと言っても扉一枚隔てただけなので,特に警戒できることはない。

聖志は意を決して中へ入る。

ガラッ…

「!」

化学室の中に人影はなかったが,以前来たときに調査したはずの西側の壁が開いている。化学薬品の入った戸棚は動かされ,明らかに何者かが侵入した形跡がある。

聖志は慎重に,少しずらされた戸棚の後ろに入る。

一番西側の小部屋に人影はない。どうやら階段を下りて例の扉の前まで行ったと思われる。

───中槻か…。

この部屋のこの場所に入口があるのを知っているのはあのとき調査した聖志だけである。藤井でさえも知らないこの場所に来るのは,やはり奴だけであろう。

腰の後ろのグロックを確認し,気配を悟られないように息を潜めながら,一段一段階段を慎重に下りる。

降りきると,暗がりの通路の向こうにやはり人影が見える。あの扉をどうやって開けようかと試行錯誤しているようだ。

「何をしている?」

「!!」

「おっと,こっちを向くと命がなくなる」

聖志は先制攻撃を仕掛けた。しゃがんで作業している彼の頭にグロックを突きつけ,

「その道具を地面に置け」

取りあえず凶器となりうるものを排除する。

「分かった」

それを確認すると,

「質問に答えろ」

「…その前に立たせてくれないか」

彼はしゃがんだ状態である。脅すにはこの体勢の方がいい。

「駄目だ。数分だ,安心しろ」

「…分かった」

「では最初の質問だ。ここで何をしている?」

「…見りゃわかるだろ,このドアを開けようとしてたのさ」

───なかなか度胸がある。

「次。ドアを開けてどうするつもりだ?」

「決まっているだろう,中へ入る」

「その後は?」

「…中を調査する」

「何の調査だ?」

「…宝探しさ」

と,そう言った途端,地面に付いていた奴の右腕が左脇へ移動した!

ガキッ!

「妙な真似はするな」

聖志は予想済みの行動に,慌てることなくそれを蹴飛ばした。しかし,奴の頭に当てたグロックは照準を離していない。

「…随分と慣れてるな」

聖志は何もなかったように尋ねた。

「あんたほどじゃないさ,西原」

「…そう言う貴様は中槻だな」

聖志はドアの方へ蹴飛ばしたものを見ながら言った。

───ルガーか…。

その特徴的なトグルを見間違えるはずがない。

「ああ。…もういいだろ,お互い知らない仲じゃない」

彼はため息を吐いて言った。

「いや,もう少しそのままでいてもらう。なにぶん俺は恐がりなんでね」

もし彼が聖志の顔を見たことがなければ,ここで会ったのが誰かわかりにくくなる。

「よく言うよ,ここまで入ってきて」

「…もう一つ質問だ。俺の情報をどこまで知っている?」

「姓名,ここの学校の生徒ということだけだ」

「…」

───嘘は吐いてないな…。

嘘に聞こえるからこそ,真実でもあるのだ。逆に,嘘を吐くつもりならばもう少し具体的な内容が出てきてもおかしくない。

「情報源は?」

「……信じないかも知れないが,俺の女だ」

「…名前は?」

「石津美沙子だ」

「では,最後だ。貴様は軍関係者か?」

「いや」

「よし。では今からカウントする」

「…」

「10,9,8,7,…」

「おい,どうするつもりだ?」

聖志は構わずにカウントを続ける。

「3,2,1,0!」

と言った瞬間,彼は階段に向かって全力で駆け出す。

当然ながら,中槻も後から追ってくる。しかし,聖志の脚力が勝った。化学準備室を飛び出し,荷物を置きっぱなしにしておいた化学室の窓から中庭へ出て,そこからグランドを経由して体育館裏の出口から走り出る。最初から考えていたわけではないが,とっさに思いついたのがこのルートだったのだ。幸いグランドには誰もいなかったので姿は見られていないはずだ。

歩道に出た聖志は念のために急ぎ足で駅の方向へ向かい,尾行が付いてないのを確認すると学校の北側の道路を通り,そのまま家路を辿った。

───顔は見られてないな…。

中槻を詰問した後どうするかを考えてなかった聖志は,取りあえず逃げることを思いついたのだった。

恐らく中槻が聖志のことを知っていると言ったのは,情報に関してだけであって,本人と会ったということは分かっていないであろう。しかし,聖志が驚いたのはその部分ではなかった。

───あいつが付き合っている女だったとは…。

石津美沙子は,聖志が中学生の時に飛島と並んで付き合いのあった,いわば悪友の部類に入る女子生徒だった。中学3年の2学期に転校して以来,音信不通になっているが,彼女がどうやって聖志の情報を手に入れたのか,興味があるところだ。

見慣れない歩道を歩くこと数分,ようやく自宅マンションへ着いた。

「ただいま」

「お兄ちゃん,お帰り」

美樹は試験前なので半日授業だった。

「…今日は早いね,どうしたの?」

彼女はリビングのテーブルでやはり勉強中であった。

「ああ,朝刊見ただろ」

「…あ,あれね。それでこんなに早いの?」

「ま,そういうこと。それと,明日から数日間は臨時休校だそうだ」

ネクタイを緩めながら言った。

「え,いいな。お兄ちゃんも試験前だったんでしょ?」

「ああ。俺にはかなり嬉しい休みなわけだ」

聖志はそう言って笑い,寝室へ着替えに入る。

───取りあえず,遺跡情報を頼むか。

今日は結構することがあるので,高崎署の捜査本部の方に遺跡情報の詳細を調査させようというのである。これは歴とした手続きの元に行われるのでJSDOと警視庁でもめることはないはずである。元々JSDOと警視庁は提携調査ということで手を結んでいるので,本来はこっちが正規のやり方であるが,聖志の性格上,する事は一所にまとめた方がいいと思っているのであまり頼み事はしない。

聖志はいつものようにパソコンの前に座り,早速調査を開始する。

まず,高崎署捜査本部へ連絡を入れる。電話回線についている変換器で専用回線に変え,ダイヤルする。

「こちら高崎署刑事課です」

「西原だけど,鍵川警視についないでくれ」

「あ,はい」

待つことしばし───。

「あのね西原君」

「は?」

いきなり説教口調で名前を呼ばれたので,思わず聞き返した。

「そういうことは電話じゃまずいんじゃない?」

「…そうですか。じゃあ今から行きますけど?」

長くなりそうだったので,聖志は自分から言った。

「いいけど,おみやげ持ってきてね」

警視は適当なことを言うと,勝手に電話を切った。

「…勝手な奴だな」

受話器を置いてつぶやいた。

「え?」

横で勉強している美樹が,聖志の独り言に反応した。

「いや,こっちの話。それより今から出てくる」

「分かったよ。いつ帰るの?」

「多分…すぐ」

用は,頼み事をしに行くだけなのだ。

「分かった」

「じゃ」

聖志は駐車場へ向かった。

 


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