───5月22日。
「そんなわけで,今度の試験は結構難しい。しっかりと勉強しておけ」
2時限目終了のチャイムに重なっても構わず言葉を続けるのは応用英語担当の瀬戸。この授業だけは何か面白いので窓の外を見ていたとしてもしっかりと聞いている。
授業後の開放感に浸っていると,
「西原,後輩が来てるぞ」
でかい声で言うのは悪友。その後ろには昨日部室にいた1年F組葉麻佐紀とレイアウト班。
聖志は席を立って彼女等の方へ向かう。
「どうした?」
言いながら廊下に出る。
「部長がいなかったので,先輩に見てもらおうと思って…」
「へ? あいつ休みなのか…」
───ま,多分試験勉強してんだな。
校内でもなかなかの成績の彼女は,1年のときからこうである。
そう思いながら佐紀の持ってきた原稿を受け取る。文章にあわせたイラストや資料を配置したものである。
「どうですか?」
「…確かこれって,写真あったよな?」
PTA会員の名簿が載っている。
「名簿よりは,あの写真の方が一目でわかりやすくない?」
「あ,それ,私も思ったんですけど,写真がなくなってて…」
「ホントか?」
「はい。今日も朝から探したんですけど…」
1年B組の高倉は,セミロングの髪を弄んで言う。
「そっか…」
聖志はこの校内情報に関して妥協は一切するつもりはないので,
「じゃあ,誰か教師に資料でも借りて,それをコピってくれ」
「わかりました。じゃ,もう一回見せに来ますね」
「ああ,頼む」
そう言うと,レイアウト班は駆けていった。
「さすがは西原。妥協はしないな」
その会話を聞いていたのは世界史担当の中條教諭。
「ま,こだわりってやつ?」
さも当然の如く答える彼。
「授業の方にもそれだけこだわってくれるといいんだが」
「同感ですねー」
まるで人事のように言う聖志。
で,3時限目は中條教諭の世界史だった。やっぱり聖志にこだわりはなかった。
───昼休み。教室内は売店に戦争に行く者が一斉に出かけるおかげで,20分ぐらいは4,5人にまで人口が減る。
聖志はいつもの如くパソコンを操作しながら昼食中。彼はあらかじめ朝にコンビニで昼食を買ってくるので戦争をする必要はない。
「…せんぱーい」
葉麻が少し遠慮がちに教室の入り口から呼んでいるのが聞こえた。それを見つけた彼は,手招きをする。彼女は一番端っこの聖志の席に来る。
「できました」
「どれ…?」
さっき指示したようにちゃんと写真が貼られている。配置もさっきより見やすくされてあった。
「OK。決定稿だな」
「よかった」
葉麻は微笑んだ。
「勉強の方はどうだ?」
「ええ,なんとかやってますけど,ちょっときつかったです」
そう言って苦笑い。
「そうか。じゃあ今度から試験の月には早めにやってしまうか」
「…去年はどうだったんですか?」
「そうだな…俺はずっとやってた。今の3年にこき使われて」
「試験前でも?」
「ああ,お構いなし。試験よりもそっちの方が忙しくて」
頭を掻く聖志。
「じゃあ私って贅沢言ってるんですね」
少し驚きぎみに彼女が言う。
「いや,去年がおかしかっただけで葉麻の意見はもっともだ」
「あはは,そうですか?」
聖志が妙に強く言うので佐紀は面白がった。
実は彼女,中学のときも聖志の後輩にあたった。そのときはテニス部で,聖志は2年生から3年生までだけで辞めたが,佐紀は中1に入部したときからずっとテニスをやっていた。聖志とは,先輩としての付き合いが一番長い。
「奴等は後輩には厳しくって言ってたけど,不必要に厳しくすることはないし。まして,試験前なんだから,当然のことだと思うけど」
「…そうですよね」
「って,昼食べなくていいのか?」
「いえ,もう食べましたから。あ,じゃあこれ提出しときますね」
「いいよ,俺が出すから」
───その方が都合いいし。
有無を言わさず彼女の手から引き抜く。
「あ……じゃあ,失礼します」
「ああ」
慌てたように彼女は教室を出た。
放課後,彼は職員室へ赴いた。
「藤井せんせー」
聖志は間のぬけた声で彼を呼ぶ。
「ここ」
今まで寝ていたようで,彼も眠そうな目を開けて,手を上げて振り回している。
職員室には都合のいいことに彼以外誰もいない。
聖志は取りあえず決定稿を提出する。
「ああ,コピーしとこう」
彼はよく見もしないでコピー機に入れる。
「───で,昨日は調査できたか?」
「ちょっとだけな」
そう言って鞄の外ポケットからフロッピーを取り出す。
「ま,時間はあるし,いいか」
「って,藤井も調査したのか?」
「俺は…寝てた」
やっぱり間のぬけた声で言って,デスクトップにフロッピーを挿入する。
彼はデータをしばらく眺めて,
「こんなとこか。3日目にしては,結構行ってるな」
「ま,PCルームから侵入すれば簡単だけど」
「じゃあ引き続き,調査だな」
「ああ」
聖志は藤井の机の上に置かれたコーヒーを一口飲んでフロッピーを抜き出し,鞄に放り込む。
「んじゃ」
「ああ,明日はテストだろ,今日はよく寝とけ」
「OK」
───5月23日,一学期中間考査第1日目。
「じゃあ教科書をしまって,筆記用具だけ出せ」
第1日目は数学と古典。聖志はどちらも無難に解答し,提出した。
この1週間だけ聖志は調査を中断する。その代わりに藤井が力を入れて働いているようだ。
───1週間後。
「今回はどうも調子が出なかったわね…」
登校途中,舞が呟く。
「聖志は? さっきから黙ってるけど」
隣を歩く彼に尋ねる。
「…いつも通り,適当」
全く興味を示さない聖志。
偶然駅前で出会ったので,こうして一緒に登校している。
「何それー。まるでうまく行ったみたい」
つまらなさそうに口を尖らす。
「だから,いつも通り。可もなく不可もなく」
「そうなの」
緩い坂道の下にある高校を眺めながら彼女が言った。
試験後の登校時の会話は必ずこの話題である。しかし大概は舞が話し手,聖志が聞き手という感じ。しかも聖志はほとんど興味なさそうな反応しかしない。それをわかっているのかいないのか,必ずこの話をする。
「おーい,西原!」
突如後ろから声をかけてきたのは飛島。坂道を駆け降りてきた。
「朝から見せ付けてくれるじゃねーか」
息を切らしてそんな事を言いながら聖志の背中を叩く。
「ん?」
聖志は「何が?」って顔をする。
「おい星野,お前も何か言えよ」
「何を?」
「付き合ってんだろ? 聖志と」
「ええ,かれこれ17年もね」
彼女は微笑んで言った。
「…そうじゃなくてだな,男と女の付き合いを言ってるんだけど…」
あまりにもきっぱりと言い切られた飛島は,考えながら再度尋ねる。
「それって私が女に見えないってこと?」
少しすねた感じで彼女が飛島に食い下がる。
「だから,そうじゃなくて…」
2人の痴話をBGMに,聖志は昨日の情報のことを考えていた。
───文部省には問題の5人の教師の名前が登録されていない。
これは一体どういうことなのか。
───文部省が知らない教師を高校で雇えるのか?
しかしこれを知る為には事件を解明しなければならない。これ以上の情報は入ってきていないのだ。
「ま,何とかなるか」
『へ?』
思わず漏らした言葉に,飛島と舞が振り返った。
「ん? どうした?」
「今,何とかなるって…」
舞が目を点にして言った。
「そんな事言ったか?」
「ああ」
飛島も頷く。
「気にするな」
聖志はそう言い残し,正門をくぐった。
「おはよう」
「おはよ」
いつもの席に着くと,平本が挨拶した。
「今日は半日だっけ?」
「それならいいんだけど,実は一日授業よ」
「そうだったのか…」
生まれて初めて知ったかのような返事をした。
暫くして,教師が入場した。
先日の試験を返却するのが常で,今日は一日中返却の嵐である。
教壇に瀬戸教諭が立つ。
「喜べ,このクラスに学年トップが出た」
それを聞くと,生徒がざわめく。なんとこのクラスは,2年生の中では最悪の成績だったのだ。それをネタに担任にもクドクドと同じ話を何回もされた覚えがある。
「しかも意外な人物だ。…その人物とは!」
そう言って間を置く。全員が一瞬の沈黙。
「西原,お前だ」
「へ? 何が?」
意外な教師の答えに,一瞬理解できなかった。
「学年トップの満点だ」
おおーっ!
全員が歓声を上げる。何故か自分のことのように。聖志自身もさすがに驚いた。
「凄いね,西原君」
隣人の平本も驚いたようだ。
「ついにやったな。1年から中途半端な成績で,ここでようやく花咲いたってか」
瀬戸もジョークを飛ばしながら,返却しはじめた。
───ま,こんなもんか。
6時限目が終了した時点での感想であった。学校の成績がよくても,彼にはあまり関係のないことである。彼は既にJSDOに所属しているので,卒業後の配備先は決まっている。
「あの情報か。俺も昨日聞いた」
「ま,本部からだったし,ガセじゃないとは思うけど…」
今日はPCルームでの藤井との会話である。
「文部大臣を出し抜いているとはな」
「確か,小倉文相だったかな」
「ああ。だが,俺が思うに,文部省は直接関係しているわけじゃないと思う」
藤井が意外な意見を言う。
「へぇ。なんで?」
「法に引っかかるだろ。それに,ここは公立高校だ。県も認可するだろうし,第一教師って公務員だろ」
「そうえばそうだな…」
「県や市を無視して学校内をいじりまわせる奴といえば…」
と,そこまで言ったとき,部屋のドアが開いた。いきなりだったので2人ともドキッとした。
「あ,先輩。それに先生も」
「あれ,葉麻に高倉」
「使うのか?」
「あ,はい」
それを聞くと,藤井はこの部屋のメインスイッチを入れに行った。
「先輩,聞きましたよ,学年トップなんですよね?」
「ああ,英語だけ」
「やっぱり偉かったんじゃないですか,見直しましたー」
少し感激した様子の高倉麻由美。
「中間で稼いでおけば期末は手を抜いても大丈夫だろ?」
「そういうことだったのか,聖志」
戻ってきた藤井が言った。
「で,何するの?」
聖志は藤井の言葉を流して2人に尋ねる。
「今日は自習です」
佐紀が言う。
「何事も慣れですからね」
高倉はそう言って聖志の隣のチェアーに腰掛けた。2人ともパソコンは初めてらしく,慎重な手つきでキーボードやマウスに触れている。
「じゃ,聖志,後は頼むぞ」
「はい」
───さて,暇になったことだし,一眠りするか…。
と,聖志が立ち上がったとき,
「先輩」
「え?」
高倉が手招きをしている。
「どうした?」
「これ」
ディスプレイを指して,何やらニヤついてる。
「…おいおい」
通称エロ画像がでかでかと表示されている。
「先輩も興味あるんでしょ?」
「そうだな」
高倉の疑問にストレートに答える聖志。
佐紀は隣で真っ赤になっている。
「ねね,これってイケてる?」
麻由美は興味津々に聞いてくる。
「まあ,いけてるんだろうな…」
と,よくよく見ていると,よく似た顔を思い出した。
「佐紀,先輩真剣に見てるよ」
「やめてよ,もう」
───まさかな…。
聖志が思い出したのは保健室で校医をしている大嶋水穂。生徒にとっては砂漠のオアシスのようなもので,授業や恋愛の悩みなどを聞いてくれると評判の美人な校医である。
画像には女の裸体と,ピンぼけしているが背景がある。しかし,どこか確定できるほどではない。
───ま,念のため。
「高倉,その画像をコピー」
そう言って聖志はFDを手渡す。
「え? マジで!?」
「そう」
聖志はこの部屋のホストコンピューターを使い,LANでさっきの画像のあった場所を探す。もちろん,彼女等のいる位置から画面は見えない。
検索ツールを使うと,答えが出た。
───教頭?
この高崎市立中央学院高等学校教頭,能島英一。京都大学教育学部を出た,頭脳の上ではかなりの秀才である。しかし,頭のいい奴は考えていることがわからないとはよく言ったもので,女子生徒,教師への嫌がらせの噂が後を絶えない。職員会議においてその話題が持ち上がらないのは,彼の権力が彼を守っているからである。
───経歴は…。
聖志は教頭の個人データにアクセスしようとすると,パスワードの画面が出た。
───ちっ。今日はパソコン持ってないからな…。
彼のパソコンにはパスワードプログラムを無効にするプログラムが入っているのだ,
「先輩,できましたよ」
高倉がFDを手に持って振り回している。
「ああ,置いといて」
「ほかのはいらないんですかー?」
またニヤついて言う。
「そうだな…入るだけ入れとこう」
「え? ホントに?」
「ああ」
「ホント,スケベなんですね」
さすがに呆れ顔だ。
「何だ,知らなかったのか?」
───PM5:30。
「そろそろ正門が閉まるぞ,出よう」
「そうですね」
聖志は延べ1時間ぐらい調べたが,別にこれといった情報はなかった。
PCルームのマスターキーを持って暗い廊下を歩く。PCルームは北校舎の3階の一番奥にあり,授業以外はあまり人も寄らず,巷では幽霊が出るだの,何か取り付いているのだの,色々に噂されている曰く付きの場所だ。
「ここって,幽霊が出るんでしょ?」
案の定高倉が噂を持ち出した。
「嘘でしょ?」
半信半疑の佐紀。
「さあ。でも,多佳子が似たような話してたよ」
1年D組の佐々木多佳子のことで,彼女もまた広報部の一員である。彼女も高倉と同じように,噂話が好きなようだ。
「ホントなんですか,先輩」
「俺は知らん」
彼は少し笑って言った。
「あ,そうだ。こんな話もあるんですけど,学校の先生がお金を横取りしたって誰かが言ってたよ」
───!
高倉から出た言葉に,聖志は驚いた。
「おい,どこで聞いた?」
「えっ…」
思わず聞き返した。
「ちょっと,先輩脅かさないでよ,顔が恐いよ」
「へ?」
突然のことだったので,そこまで考えてなかった。
「あ,悪い。で,どこで聞いた?」
「あ,うん,F組の田中君から…」
田中伸治。葉麻と同じく1年F組の生徒。聖志は顔を知らないが,データだけは知っている。
「そうか。そのことは口外するな」
「えー,なんで?」
ふざけた風な彼女を正面から見据える。
「いいから,絶対言うな。葉麻も。いいな。それと,画像のこともだ」
結構な迫力に,彼女等は少しの間硬直した。聖志は,いつもはちょっと馬鹿げているが優しい先輩で通っているだけに,稀にこういう姿を見せるとかなり強く印象に残る。
「もしこの事が知れた場合,お前にとって都合の悪いことが起きる」
「は…はい」
さすがの高倉も,言葉が出ない。
「それだけだ,驚いたなら謝っておく」
顔を元に戻し,普通の口調でそう言った。しかし高倉には,彼の怖さがなんとなく知れた。それは,絶対に逆らえないという圧力感。
「んじゃな」
「はい,さようなら」
玄関で別れ,聖志は職員室を目指す。
ドアの隙間から職員室の様子を探る。
───よし。
扉を開け,藤井の姿を探す。
「藤井さーん」
呼んでみるが返事がない。
「ちっ,肝心なときに…」
ぶつぶついいながら,藤井のデスクへと向かう。
───ん?
“今日は急用。帰る。PM5:00”
そう書かれたメモが置かれていた。
───仕方ない,帰るか。
聖志はPCルームのマスターキーをもとのところへ返し,部屋を出ようとすると。
ガダン,ガタッ…
何やら奥で人の気配がした。職員室の奥にあるのは校長室へつながっている扉である。
彼は音を立てないようにその扉へ向かい,上の窓からそっと部屋の中を伺う。中は別に変わった様子はない。
───こんこん。
校長室なので,一応ノックする。
明かりのついていない薄暗い部屋に入ると,右手に校長の机,奥の壁沿いにはトロフィーや賞状なんかが飾られている棚,左手は来賓用のソファ,机。誰もいない学校も恐いが,誰もいない校長室も,なかなか不気味なものである。
様子は変わらないものの,相変わらず人の気配が消えない。
聖志が一歩部屋に足を踏み入れると,
「うーっ! うう!」
いきなり奇妙な声が聞こえたので,思わずブレザーの懐に手を入れた。
「どこだ?」
話が分かる相手なら,何か教えるはず。
コンコンコン!
それは,校長が使う,木製の机の下から聞こえてきた。
一応警戒しながら机の下を覗く…と!
「大嶋先生…?」
その人影は,うんうんと頷く。事態を理解した彼は,取りあえず彼女の口に巻かれているタオルをとり,机の下から引っ張り出す。
「大丈夫?」
そう言って後ろ手に縛られている縄を解く。と,途端に抱き付いてきた。
「うう,…ひっく…」
聖志の顔も見ないところを見ると,相当脅えている。
───取りあえず落ち着かせないと。
彼は肩を貸し,職員室の方へ移動する。もちろん,自分が入った証拠は残さない。
───ここにいるとマズいかな…。
そう判断した彼は,職員室から出やすい中庭に出ることにした。
例によって聖志が工作をするときに腰を下ろす,あの場所に彼女を連れて行く。
まだ肩を放そうとしない彼女の背中をぽんぽんと叩く。
「───落ち着いた?」
聖志は大嶋の顔を覗き込む。
「…ええ,本当にありがとう。───西原君!?」
初めて顔を見て驚く彼女。
「驚いた?」
「え…ええ。まさか西原君がこんな時間にいるなんて…」
「俺だって伊達に寝てるわけじゃない」
「え? また寝てたの?」
「気にするな」
「もう…ちゃんと授業は受けなさいよ」
すっかりペースを取り戻し,笑顔を見せた。
「…ふふふ,ありがとう。───でも,どうしてここに,連れてきたの?」
「先生をやったのは…?」
唐突な質問に,彼女は驚きを隠せない。
「…わからないわ。職員室に入ったら,いきなり後ろから…」
そう語る彼女の顔は脅えの表情が入っていく。
「それで,気が付いたら…」
「わかった。もういいよ」
───しばしの沈黙。
「…それで,どうしてここへ?」
「ああ,犯人が戻ってきたら厄介だから」
「───あ。そっか」
両手の手のひらを合わせて彼女が言う。たまに見せる子供っぽい仕草だ。
と同時に聖志が腕の時計を見る。
PM5:55。
「先生,俺帰るわ」
「え…?」
「だって,ほら」
腕時計を彼女に見せる。
「ほんとだ」
「先生も今日は帰った方がいい」
「…ええ」
「それと,今日のことは誰か信頼できる人に伝えて」
「…」
「言わないと,またやられる可能性がある」
「…わかったわ」
「OK。じゃあ犯人が来る前に帰りますか。早く用意しなさい」
聖志は少し急かすように言った。
「わかりました,西原先生」
彼女は特有のお茶目な性格でそう言った。あんなことがあった割には立ち直りが早い。