気付かないもの

 

某歌手のCDを聞きながら,あたしは作っている。

「桜,期待してるぞ」

秀こと秀忠があたしの頭をはたいて校門を立ち去ったのは一昨日。別に彼氏でも何でもない,イヤどちらかといえば呑み仲間…ふざけ仲間…悪友…だめだ,ろくな呼び名が思い浮かばない。とにかく彼はあたしにそう言い残した。

当然女である以上,いくらボーイッシュとか言われようとも,男に生まれればよかったのにと言われようとも,宣戦布告されちゃあ黙っていられないよね。

彼とは中学からの付き合いだが,全くと言っていいほど恋愛感情はない。早7年が過ぎ,その距離は全くの平行線。もうそれは不思議としか言いようがないぐらい。多分彼はあたしのことを女だと思ってない。確実だ。

中学の時は外で男子と駆け回り,高校の時は女だてらに剣道部で輝かしい戦績を残した。そんなあたしと何故かずっと同じ世界に彼がいた。高校受験時に離れるかもしれない,という話は一時出たが,数ヶ月経って気がつくと同じクラスにいたという,恐ろしい話…気が付かなかったあたしも怖いんだけど。当然高校生にもなると恋愛沙汰の一つや二つはあるはず…だった。でもいつも横に彼がいたのよ。でも高校の時はバレンタインデーなんてお構いなしだった。何人かの男子には冗談交じりに,

「手作りくれ」

と言われたけど,だってめんどいじゃん。作るの。何であたしがあんたらなんか…。コンビニの買ってあげるのも手だったんだけど,なんだか虚しいじゃん。確かにジャニーズ顔のかっこいい奴らだったけど,別に好きじゃなかったし。剣道相手したら目茶弱かったし。

「チョコ欲しい?」

いつもの如く並んで帰る道中,彼に言ったが

「いらん」

と,いつにない電光石火で言われたことがある。そのときから2年間は,バレンタインの時にこの言葉は彼に言わなかった。

でも大学に入って1年目。あたしらは大体同じ日程でほとんど同じ授業を選択してるから,必然的に同じ行動パターンになり,そうなるとお互い横にいる時間が増える。夏過ぎてからは全くと言っていいほど横にぴったりいる。

「彼,友達なんでしょ? 別の彼氏作れば?」

友人にタコができるぐらい言われてるけど,そんな気にならない。

 

じゃあ何であたし作ってるんだろ…? 慣れない手付きで本を見ながら。

答えは出てるじゃん。

―――決戦は金曜日ってか。

 

 

 


○あとがき

2時間程度で書き上げたものです。ヒロインのモデルがどんな人かはご想像にお任せします。

本当は好きなのに自分で気付いてないこと,ありませんか? ヒロインはふとした瞬間に気付きました。さて,秀忠はいつからその気持ちを持っていたのでしょうか…。

プロットなしで書いた割には,まともに纏まった気がします。